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【提言】医工連携のモデル-米国シリコンバレーにおける医療機器開発

2.スタンフォード大学における医療技術開発の状況

【医師と工学研究者が同じ場所で食事をとる】
 FIIにおける見学を終えて、スタンフォード大学に移り、臨床の医療をやりながら、医療機器開発に取り組んでいる池野先生から、スタンフォード大学における医療技術開発の状況について説明を受けた。
 スタンフォード大学のキャンパスで興味深かったのは、クラークセンターという施設が、医学部と工学部の間に位置しているという点である。
 クラークセンターは、比較的最近建てられたもので、どうも医工連携を意識して意図的に医学部や工学部の間に建てられた。クラークセンターには、大きな食堂があるが、医師の先生方と工学系の研究者や大学院生が同じ場所で食事をして、いろいろと話しをしている。日本ではこのような状況はまずないだろう。医工連携は大学にとって大事であり、メリットがあるという認識のためであろうが、その辺は日本の大学の現状と大きく乖離しており、日本の大学の立ち遅れを想うと気持が暗くなった。
 クラークセンターには、食堂以外に、情報系などいろいろな分野の研究室がある。興味深いのは、窓ガラスが大きく殆ど外から丸見えである。研究室で何をしているのかが一目瞭然で分かるようになっている。これもスタンフォード大学の独特の気風であろうか。

【きわめて戦略的・効率的に練られた人材育成の仕組み】
 スタンフォードの医療機器開発のトレーニングで目玉である「バイオデザイン」のオフィスを訪問した。「バイオデザイン」は、医療技術開発に関する大学院レベルのトレーニングコースで、院生のみならず、研究員や大学教員までを対象としている独特なプログラムである。
 このスタンフォード大学のバイオデザインのトレーニングは、ユニークで優れていることが広く知られるようになり、バイオデザインのトレーニングを受けたということだけで、医療技術開発の従事者として高く評価されるという。
 普通の大学院と決定的に違うのは、全員奨学金であるfellowshipを受けることができる。そのために応募者の中からの選考が極めて厳しい。この奨学金は、全て企業からの寄付に依存している。応募者は、自らの能力を如何に売り込むかということから始まるが、応募者の売り込みそのものが、バイオデザインのトレーニングになっている。
 合格となってバイオデザインのフェローになると、通常の大学院生のようにデスクをもらうが、フェロー同士の討論がやりやすいように、ソファやセミナー室のような部分が十分にスペースを取っている。フェロー同士では、雑談をしても教官に叱られるという訳ではなく、むしろ雑談の中からアイデアが出てくるという人間の心理をうまく活用するような雰囲気にしている。
受講者が最も大変なのは、真っ新な所にアイデアを出すトレーニングだそうで、1年間かける。さらに重要視しているのはブレーンストーミングで、10坪くらいのブレーンストーミング専用の部屋がある。この部屋の壁は全てホワイトボードになっていて、討論に応じて何でも書けるようになっている。さらに、ホワイトボードの上の縁には、色々な格言が書かれており、受講者のモチベーションを高まるようになっている。部屋の隅には、作動原理を考え出すための小道具がおいてあり、それらをいじりながらアイデアを出す。日本だと小馬鹿にされそうな小道具(レゴ、日用品の道具など)であるが、そこからアイデアを引き出せるという意味で、必須のグッズになっている。
 トレーニングは2年間で、最後に論文をまとめるようなことは要求されていない。その代わりに、投資家の前でプレゼンをして、自分のアイデアが如何に優れているかを説明するような場があり、場合によっては、そのようなプレゼンの場で、実際の開発と事業化が実現する場合もあるという。このバイオデザインのトレーニングを修了したフェローは、米国内で30名程度、米国外(インド、シンガポールなど)で10名程度であり、修了したフェローの顔写真が、飾られていた。
 さらに、バイオデザインのトレーニングでは、レギュラトリーサイエンスやマーケテイングに関する授業を受けるカリキュラムがあり、医療技術開発に必要なカリキュラムが十分に整備されている印象をもった。
 このようなスタンフォード大学のバイオデザインのカリキュラムが、シリコンバレーでの医療ベンチャーを担う人材を育成している状況は、極めて戦略的であり、合理的効率的な仕組みには驚かされた。

更新日:2012/05/22